Portrait of CDO #1 前編:社会課題を解決する、LIFULL流クリエイティブ戦略
株式会社LIFULL(以下LIFULL)は「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージとするソーシャルエンタープライズ企業。あまり聞きなれない「ソーシャルエンタープライズ」ですが、何かと言うと事業を通して社会課題の解決を目的として収益事業に取り組む事業体なんだそうです。
渋沢栄一の「論語と算盤」のように自社の収益と公益との両立を目指す企業、そんなLIFULLでCCO(Chief Creative Officer)としてクリエイティブ全般を統括している川嵜氏に、ソーシャルエンタープライズ企業ならではのデザイン経営について聞いてみました。
川嵜 鋼平
執行役員CCO (Chief Creative Officer) / クリエイティブ本部長
2017年入社。執行役員CCOとして、ブランド戦略、ブランドデザイン、プロダクトデザイン、コミュニケーションデザイン、PR、研究開発、新規事業など、グループ全体のクリエイティブを統括。社会課題解決に取り組むあらゆる事業のクリエイティブ責任者として、グループ全体の経営をリードしている。またクリエイティブ組織の戦略策定・育成・採用など、組織づくりも担う。それ以前は、beacon communications k.k.、J. Walter Thompson Japanにて、Nike、Nestle、P&Gなどの企業のクリエイティブディレクションを数多く手がける。Cannes Lions金賞、Clio金賞、One Show金賞、Spikes Asiaグランプリ、Adfestグランプリ、文化庁メディア芸術祭優秀賞をはじめ、国内外の180以上のクリエイティブアワードを受賞。
神谷:
本日はよろしくお願いいたします。
川嵜:
はい。よろしくお願いします。
神谷:
それでは早速なんですが、川嵜さんがLIFULLに入社された経緯からお聞かせいただけますでしょうか?
川嵜:
私がLIFULLに入社したのは2017年の5月でCCOとして入社しました。
LIFULLという社名は「あらゆるLIFEを、FULLに。」ということを表した造語になるのですが、世界中のあらゆる人の暮らしや人生を安心と喜びで満たす、そういった事業展開をしていきたいというビジョンで、そのビジョンに私自身もすごく共感して入社を決めました。
神谷:
入社当時、LIFULLにはどんな課題感があったんですか?
川嵜:
不動産・住宅情報サービスが主力事業なんですけれども、長らく良くも悪くも開発力と営業力を中心として事業成長をしてきた会社でした。
2017年4月に、「あらゆるLIFEを、FULLに。」という、つまり78億人一人ひとりのLIFEを安心と喜びでFULLにしていくという壮大なコーポレートメッセージを掲げた時に、やはりその実現を目指して事業成長していくには世界で最もクリエイティブな会社にならなくてはいけないと考えた代表の井上※1からも話があり、クリエイティブの領域を担当していくことになりました。
※1 株式会社LIFULL 代表取締役社長 井上 高志氏
神谷:
世界で最もクリエイティブな会社を目指す。それは大仕事ですね!
社会課題解決のための、クリエイティブ戦略
神谷:
LIFULLでは、クリエイティブの領域をどう定義されているのですか?
川嵜:
そうですね。
まず、LIFULLグループとしてはデータを集めて、ファクトから社会課題の芽を発見しビジネス×クリエイティブ×テクノロジーで社会課題を解決する事業をつくるということを重点戦略として置いております。
いわゆるソーシャルエンタープライズというカテゴリーの企業として、全ての事業において社会課題解決に取り組んでいくいうことを宣言しています。
その中でクリエイティブとしては大きく4つの戦略大方針を立て、クリエイティブ本部の傘下で実行しています。
※LIFULLのクリエイティブ戦略
まず1つ目は、「社会課題の発見・事業創出」という部分です。社会課題を発見して、アジェンダ化し、それらをテクノロジーと掛け合わせて、事業アイディアを創出していくサポートを行っています。
どの領域の事業を見ているのかといいますと、大きく2つあります。
住生活、高齢化社会、地方創生、海外領域といったトップダウン事業領域の社会課題解決と、同時に多様な社会課題解決に向けたボトムアップ型の事業創出の仕組みづくりを行っています。
それらの事業を創出させたり成長させていくという目的で「Think, Make & Do. 広義のデザイン」の実践をしています。これが2つ目のミッションです。この「Think, Make & Do. 広義のデザイン」を簡単に説明しますと、いわゆる発想力・表現力・実行力、この3つの力を伴ったデザインスキルを伸ばし実践していくというLIFULL独自のデザイン戦略です。
3つ目は、先ほどの事業とリンクする形で「企業姿勢や注力事業におけるマスターブランド戦略を実行」していこうというものになります。
2018年から「しなきゃ、なんてない。」という企業コミュニケーションを開始しています。マスターブランド(企業ブランド)のコミュニケーションとサブブランド(サービスブランド)のコミュニケーションで、支援と貢献の関係を構築することによって企業グループ総体で成長していくという戦略となります。
サブブランドでいうと例えばLIFULL HOME'S、LivingAnywhere Commonsなどのサービスブランドのコミュニケーションを意味しています。
4つ目は、「クリエイティブ経営の推進」です。社会課題の発見・事業創出、Think, Make & Do.広義のデザイン、マスターブランド戦略、これらの戦略がしっかり進捗しているかということを管理しながら戦術・戦略の立案・改善をしていくことをミッションとして持っています。
例えば、ブランド経営の観点では、企業コミュニケーションにおいて、広告宣伝費の投資が実際に売上に対してどれぐらいのインパクトがあったかを可視化したり、非財務指標の観点からは従業員の満足度や採用など、どういった貢献効果があったかについて指標化していくことも取り組んでいます。
CCOとしてはこれらの4つの戦略をリード、管掌しています。
経営の意思決定に参画する、CCOの役割
神谷:
経営実務の中での役割や関わり方について教えてください。
いわゆる経営企画みたいな部署が経営・事業戦略を策定して、そこに紐づくクリエイティブ戦略をある程度骨子の部分まで作っていってるのかなと一般的には考えてしまうのですが、実際CCOとしてはどの辺まで担当されているのでしょうか?
川嵜:
そうですね。
クリエイティブ戦略については、全部自分で絵を書いています。
経営ボードのメンバーの一人として、クリエイティブ領域以外の経営・事業戦略自体もボードメンバーとして意見を述べて、方針を決めるところから入っています。
経営企画の役割としては、経営ボードで経営・事業戦略の方向性を議論した後に、どういったシナリオがあるのか専門家の視点を持って計画に落とし込んだりしています。
事務方として実行計画を考え、会議体の運営をする経営企画と、構想や戦略をクリエイティブチームの担当役員としてボードメンバーで一緒に意思決定しているという部分が役割の違いでしょうか。
神谷:
CCOは経営の意思決定に参画されているポジションということですね。
ボードでの意思決定の際に気をつけている視点など、何かありますか?
川嵜:
意思決定をする際にこれはLIFULLらしいのかという観点は、すごく大切にしていますね。
これは弊社の井上も同じスタンスなんですけれども、うちは経営方針として公益志本主義経営を掲げています。資本主義の「資」が、「志」なんですよ。なのであらゆるステークホルダーが幸せになれるような意思決定なのか。単純に自社だけが儲かればいいっていう企業ではないのでそういった観点を持つようにしています。
加えてLIFULLは社会課題解決型の企業ですので、どういった社会課題が解決に繋がっていくか議論しながら意見を述べて意思決定をしているっていう感じですね。
「LIFULLらしさ」からはじめた、ブランドの共創
神谷:
今「LIFULLらしさ」というワードが出てきましたが、らしさについて、ボードメンバーでしっかりと共通認識を持たれてるんでしょうか?
川嵜:
そうですねようやく最近って感じですけれども(笑)
LIFULLブランドってまだ5年目ぐらいなんですよ。しっかりみんなで同じ方向を向いていくっていうやっぱり議論の時間が必要なんですよね。なので従業員一人ひとりの考え方があるので賛否があるのは当然ですし、社会の中でも賛否があるのは当然だと思いますが、その議論を通して結果的に同じ方向に向けたらいいかなと思っています。
神谷:
ブランド作りと言うものが積み上げていくものである以上、今おっしゃられていた、らしさを議論する場がしっかりあるというのは大きいですよね。ボード以外にも社員の方々ともブランドについて共創をされているんでしょうか?
川嵜:
そうですね。直近で言うと、新しいステートメント開発を行ったのですが、それがいい例かもしれません。
※LIFULLの新ステートメント
こういったものを策定する際もクリエイティブ本部のメンバーだけで作っているわけではありません。例えば事業部門の方や新規事業の担当のメンバー、あと子会社のメンバーだったり、そういった本部外のメンバーにも策定フローに参画してもらって、様々な意見も集約して決めていくというプロセスを踏んでいます。
そういったワーキンググループで方針を決めて、役員とディスカッションしながら、最終的に着地点を決めていくということを行っています。
これらの策定に関わったメンバーと私が対談する動画を社内向け配信することをなどを通じて、社内理解をしっかり進めていこうという活動も行っています。
神谷:
なるほど。「LIFULLらしさ」を経営ボード内で共通認識持って意思決定していくだけではなく、「LIFULLらしさ」を社内浸透させながら、それを軸に社員とブランドの共創を行っていっているんですね。