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プロダクトを通じてデザイナーを増やす プレイド CDOがチャレンジする「デザイン」の民主化とは

今ではすっかり聞き馴染みのある言葉となった「CX(顧客体験)」。
その重要性とともに、CXプラットフォーム「KARTE」を通じて日本企業のマーケティング現場にCXを浸透させた先駆的存在が株式会社プレイドだ。2020年に東証マザーズ上場を果たし、それ以降も行政や企業などとのコラボレーションを次々と発表している同社は、株式市場で注目を浴びるSaaS企業の1つである。
そんなプレイドのCDOを務めるのは、2019年に解散したUXデザイン専門会社Standard incの元代表・鈴木氏。プレイドのデザインパートナーとしてスキルを磨き続けてきた同氏は、「KARTE」を道具、即ちデザインツールと呼ぶ。

「プロダクトを通じてデザイナー的な活動ができる人を世の中に増やしていく、そうして生まれるインパクトの大きさは計り知れないものがあります」

クライアントワークで成果を出し続けてきた鈴木氏が、なぜtoBプロダクトのデザイナーを選んだのか。CDOの活動とともにお話を伺った。

鈴木健一
マークアップエンジニア、Webデザイナーを経て、2006年より株式会社エフアイシーシーにてブランドサイトのWebデザイン/ディレクション業務に従事。2014年にアプリやサービスのUXデザインを専門に行う株式会社スタンダードを設立。2018年よりプレイドに入社し、UIデザインなどを担当している。2019年7月よりCDOに就任。

神谷:
2019年にCDOに就任されていますが、その経緯についてお伺いしてもよろしいですか。 

鈴木:
代表を務めていたUXデザイン専門会社Standard incのクライアントの1社がプレイドで、私は業務委託でプロダクトデザインに関わっていました。創業メンバーの1人が「デザインをプロダクトの競争力の1つとしたい」という話をしてくれていたのと、実際に経営層がデザインを重視している印象を抱いていたこともあり、2018年に入社。それから1年程現場で活動をした上で、改めてCDOにとお声掛けいただいたというのが就任経緯です。

神谷:
CDOとなってからデザイナーとしての価値観や考え方に変化はありましたか。

鈴木:
大きく変わったのは、インハウスデザイナーとデザインパートナー、それぞれの役割や存在意義の捉え方でしょうか。
プレイドに入社するまで事業会社で働いたことがなく、クライアントの課題をデザインスキルを使って解決する仕事しか経験がありませんでした。クライアントワークでは様々なビジネスやサービスに関わることができるので、魅力を感じる企業やサービスと出会えたら、そこにフルコミットしていくことが理想じゃないかと当時は考えていたんです。
そうしてプレイドに所属してから分かったのは、外部が故のもどかしさがあるように、内部に入ったからといって全てにフルコミットできるわけではない、ということです。社内のリソースや体制だけではやりきれない部分がどうしても出てきてしまう。そこを解決する手段の一つとして、デザインファームやコンサルタントの存在価値があるのだと身をもって知ることができました。
今では外部パートナーの方のありがたさを日々実感しています。

神谷:
鈴木さんは外部・インハウス両方経験した上でインハウスのCDOというキャリアを歩まれていますが、CDOにはどのようなスキルセットが必要なのでしょう。

鈴木:
CDOには経営促進ツールとしてデザインを使うことが期待されているように感じています。そのスキルを身につけるとしたら、事業運営上の様々なシーンを経験して、引き出しを増やしておくと良いのではないでしょうか。プロダクト、マーケティング、カスタマーサクセスなど、経験する範囲の広さは視野を広げてくれるし、デザイナーとしても強みになるはずです。

上場をきっかけに広がったデザインの役割


神谷:
鈴木さんのプレイド内での役割について教えてください。

鈴木:
大きくプロダクトとプロダクト以外のタッチポイントに領域がわかれていて、私はプロダクトに軸足を置いて活動しています。プロダクト以外のマーケティングやブランディング、カスタマーサクセスといったコミュニケーション領域は、そこをリードしてくれるデザイナーが担っています。
KPIは明確に指標化されておらず、自立分散したチームが「競争力のあるプロダクトを作る」という大きな目標設定のもと、チームごとに目指す目標や取り組みを都度考え、実行している状況です。

神谷:
鈴木さんがCDOに就任した翌年にプレイドは上場されていますが、上場によってデザインの役割やチームに変化はあったりしましたか。

鈴木: 
一番大きな変化でいうと、デザインに求められる幅が広がったことでしょうか。
プレイドはCXプラットフォーム「KARTE」という1プロダクトを提供する会社でしたが、上場前後のタイミングでプロダクトの展開戦略に変化がありました。KARTEを中心にサブプロダクトや新規プロダクトを開発するようになり、これまでとは違うターゲットにも価値を提供していくことになったんです。
そうしてプロダクトの幅が広がると同時に、デザインが担う役割の幅も広がっていきました。今ではマーケティング、カスタマーサクセス、セールス活動などプロダクトのあらゆるフェーズにデザイナーが携わっています。
それぞれのフェーズに求められるデザインは違いますし、その違いに対応できるかどうかはデザイナーのバックグラウンドによるところが大きいんですよね。現在デザインチームは20名編成で、プロダクトデザイナーやWebデザイナーだけでなくフロントエンドのコードを書くメンバーも所属しています。デザインチームが幅広いフェーズに対応できるよう、それぞれの専門性やありたい姿を描いてデザイナーを増やしていく予定です。

神谷:
プロダクトのライフサイクルに合わせて必要となる社員を採用していくと、固定費が膨らんでしまうので100%インハウスというのはなかなか難しいんだろうなと思います。そうはいっても外部化できないデザインの機能もある。

鈴木:
インハウスデザイナーの強みは、特定プロダクトの提供価値や事業ドメインに対して累積的な思考ができることだと思います。そこが外部のデザイナーには出しづらい価値であり、組織としても大切にしていくべき部分ではないでしょうか。1つの対象に向き合い続けているからこそできる発想やアウトプットって確かにあるんですよね。

神谷;
デザイナーの累積的な思考を活かす取り組みなども行っているんですか?

鈴木:
プレイドはマネージャーがチームを教育していくような組織形態ではなく、デザイナーが開発チームやビジネスチームに入り込んで仕事をします。構造的に学習が属人的に溜まっている状況になってしまっているため、思考や学びを共有知化する仕組み作りを進めているところです。
現在はデザイナーにプロダクト開発と兼任してデザインシステムを整備してもらっていますが、今後はアセットの整備やメンバーの学習にフォーカスした「デザインプログラムマネージャー」をチームに置くことも検討しています。

神谷:
デザインプログラムマネージャー、最近耳にしますね。

鈴木:
デザインシステムの整備や運用、加えてオペレーションの構築みたいなところを担っていただきたいと考えています。デザインプログラムマネージャーと共に学びを溜めていく仕組みを構築する。そうして内部で知見を積み上げ、外部からの刺激も受けながら成長していける組織を目指しています。

プロダクト開発の新陳代謝を高めるカルチャー

神谷:
プレイド特有の開発スタンスや文化はあるんですか?

鈴木:
開発時は「ゼロベースで考える」「出してみて学ぶ」というカルチャーを大事にしています。
プロダクトには開発を積み重ねてきた歴史がありますが、その歴史が新しい取り組みの障壁になってしまう瞬間もあります。そんな時に、今、課題に直面している人が最善を考え、ベストな選択をしたほうがプロダクトを良くしていけるはずだ、と考えるスタンスが「ゼロベースで考える」です。
「出してみて学ぶ」というのは、完成していない状態でユーザーに使ってもらい、フィードバックを元に改善していくスタイルのことです。デザイナーは仮説をベースにプロダクトを作っていきますが、仮説が正しいかどうかは議論してもわからないですよね。それならば作り込みが足りない状態だったとしても、ユーザーという評価の目に触れさせて得たフィードバックを元に改善していった方が学習が進むんじゃないかと考えています。

神谷:
ゼロベースで理想像を考えるときの、プレイド流のやり方とかもありそうですね。ソリューションのアイデアをみんなで発散しながらやってく、みたいなことなのかなと想像したりするんですけど。

鈴木:
会社として決まっている型はありません。熱狂的な想いのある方が人を巻き込んでいく始まり方や、マーケットイン的な発想から生まれるプロダクトもあります。
「KARTE Live」というWebサイト上の顧客体験向上を支援するプロダクトは、CPO(Chief Product Officer)のアイデアから生まれました。「こんなものがあったら価値になりそう」という構想段階でのプレゼンをもとに議論を重ねながらモックアップを作り、フィードバックを回して磨き込みを行ってから正式にリリースされました。 

神谷:
CPOの方が思いついて、その後に社内に呼びかけがあるんですか。

鈴木:
それも決まった型はないですが、そうしたケースが多いかもしれません。「こんなこと考えてみたんだけど、どう思う?」と投げ込まれて、興味がある人や似たようなことを考えていた人たちが集まっていくような。
「KARTE Live」は組織として予定していた開発ロードマップから外れたところで、少数のデザイナーやエンジニアが有志で活動されていました。プロダクトがある程度形となり、クライアントからの評判や効果が明らかになってから本格的にチームが組成されて、四半期ベースの開発リズムに乗っていったと記憶しています。

神谷:
まずはライトなアイデア共有から始まり、ああでもないこうでもないと模索しているうちに正式なものになっていく、そんなイメージなんですね。

BtoBプロダクトの面白さとは?

神谷:
プレイドさんは自社メディア「XD(クロスディー)」やnoteを運営されていて、情報発信も文化として大切にされているような印象です。

鈴木: 
そうですね。情報発信は大切にしています。
noteについて言えばプレイドやデザインチームの認知度をあげて採用に繋げたいという目的もありますが、それ以前にBtoBプロダクトに関わる面白さを知ってほしいという想いがあり立ち上がりました。
プロダクトをtoCとtoBに分けると、toBのプロダクトに興味を持つデザイナーって少ないのかなと感じていて。toBプロダクトの魅力を発信して、挑戦してみたいと思っていただける方の母数を増やしていきたいと思っています。

神谷:
toBのプロダクトを提供する企業さんはどこも採用でお困りのイメージがあります。toBのビジネスでデザインをする面白さを、鈴木さんはどのように感じていますか。

鈴木:
個人としては、アプローチする課題の影響範囲の大きさと、1対nの関係性が作れるところですね
toBプロダクトというのは、業務で使われる道具なんです。開発する私たちは、プロダクトを介してユーザーが抱えるビジネス上の課題に向き合い、良い仕事をするためのサポートを行います。プロダクトを使ったユーザーが良い仕事をすると、最終的にはtoCの利用者の体験も底上げしていくことができるんです。
1つの仕組みを通して多くの人の体験を変えることができる、そこにtoBプロダクトに携わる面白さを感じています。

神谷:
デザインツールを作ってる感覚に近いのでしょうか。

鈴木:
そうかもしれません。例えばCXプラットフォーム「KARTE」は、非デザイナーの方でもサイト上の顧客行動を可視化し課題を見つけ、「こういう体験を提供すれば喜んでもらえるんじゃないか」と仮説を描き、改善施策に繋げていくことができるプロダクトです。KARTEの質を高めていくと、利用するクライアントがより良い体験を思い描くことができる。そして、更にその先にいるエンドユーザーの体験をも改善していくことができます。
プロダクトを通じてデザイナー的な活動ができる人を世の中に増やしていくことで、より良い社会形成にアプローチしていけると思うんです。クライアントワークとは別の方向性のものですが、toBプロダクトを通して生まれるインパクトも大きく意義があるものだと考えています。

神谷:
UXデザインの民主化みたいな話で、クリエイティブの可能性を引き出すためのツールを作られているんですね。  

鈴木: 
最近ではプロダクトを通じて場所を作っているんだという風に考えています。クライアントがKARTEを使うことで、エンドユーザー1人1人と向き合えるようになる。エンドユーザーの困りごとを解消するために、クライアントは自分たちの創造性を発揮して、良い体験を思い描いていく。そうして提供されたものが、エンドユーザーの役に立つ。この好循環を生み出す場所として、プロダクトがあると思うんですよね。
KARTEを利用する方が自分の生活に戻ったときにも、同じ様な循環が起きるのが理想です。生活の中で得た良い体験を自分の仕事に反映させるには何ができるんだろう、みたいなところから始まり、考えを膨らませていくような。toBプロダクトに携わることで、そうした二重の循環を作っていける気がしています。

神谷: 
創造性やクリエイティブというと内発的なものとイメージされてしまいがちですが、デザイナーがやっていることって顧客を見て、行動特徴から創造性を引き出していくことなんですよね。KARTEを使うとデザイナー的な考え方ができる人が増えていくんだろうなと感じました。

***

お話をお伺いして、「プロダクトを通じてデザイナー的な考え方のできる人を増やす」という鈴木さんの、ある意味デザインの民主化ともいえるチャレンジにとても共感を持った。
今までデザインが必要とされてこなかった現場にこそデザインが必要だと実感しているからこそ、本気になってそのチャレンジに取り組まれているのだと思う。

「事業運営上の様々なシーンを経験して、自分の引き出しを増やしておく」
CDOになるために必要なことをお伺いした時にそうおっしゃっていたことも印象的で、経営という今までデザイン的な考え方が使われてこなかった仕事の現場を経験してきたことが、鈴木さんのCDOという役割の礎にもなっているように感じた。

プロダクトを通して事業運営上のさまざまなシーンにデザイン的な考え方が浸透していくことだけでなく、鈴木さんのようなキャリアのあり方、つまりデザイナーがマーケティング、カスタマーサクセスなどの少し本業から離れた領域を経験するような意味ある遠回りをすることによっても、事業全体にデザインは浸透していくのかもしれない。