Rabbit Hole of Design Strategy /みんなが知らない、デザインのほんとの仕事
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Rabbit Hole of Design Strategy /みんなが知らない、デザインのほんとの仕事

CDO(Chief Design Officer)の存在は、もはや珍しいものではない。マッキンゼーによる調査は、米国では、この5年間で「デザイン」を司る役割を組織図に追加した企業が倍増しているとしている。デザインに重きをおく企業は、同業他社に比べて約2倍の収益の伸びをみせているとする報告もあるほどだ。

しかし、同じマッキンゼーのレポートは、非常に残念な調査結果も突きつけている。曰く、約90%の企業がデザインの潜在能力を十分に発揮できていないというのだ(※)。

※ レポートは、米国で働くシニアデザインリード200人と経営メンバー100人にインタビューを実施し、同社調査ツールの回答者1,700人以上の回答を分析している。

今回の記事では、このレポートをもとに、CDOが活躍できる組織に何が必要かを読み解いていく。さらに、日本においてCDOに相当する役職を設置、あるいはデザインの価値に重きをおいている企業の皆さんにもご協力をいただいた。記事中にて、全5社のCDO(あるいはデザイン部門を率いる役職)の皆さんに回答いただいたアンケートの内容も、一部ではあるが紹介する。

アンケートに協力いただいた方々
川嵜鋼平さん(LIFULL・CCO)
鞍立寛子さん(LEAN BODY/CXO)
平野友規さん(Uzabase・CDO)
鑓溝慎太郎さん(Veltra/デザインリード)
横山詩歩さん(Nesto/CXO)

デザインへの期待が高まった10年

2010年代前半〜中頃にかけて、ビジネスにおけるデザインの価値がとくに評価されるようになった。当時、テックカンパニーを中心に、デザインチームの存在が脚光を浴び始めている。AirBnBが「デザイン経営」の申し子として語られ、Appleのジョナサン・アイヴが同社CDOに就任した2015年。当時の調査をみると、従来[1:15]であったデザイナーとエンジニアの比率が、このころには[1:4]にまでなっていることが報告されている。

背景にあるのは、市場のドラスティックな変化だ。先の見通せない未来を前にした企業は、それまで自分たちが頼ってきた仮説/フレームワークに基づくアプローチがもはや機能しないことに気づかされた。バイアスに囚われたままでは市場の変化に対応できないという危機感が共有され、誰からともなく声が上がる──「ユーザーの声を理解し、革新的なソリューションを生み出すにはどうしたらいいのか?」

そこで、デザインの力が注目されることになる。2021年現在、デザインの視点がテックカンパニーやスタートアップに限らず、レガシー企業や行政にももちこまれているのは、もはや説明するまでもない。

アウディ・TTで知られるカーデザイナーのペーター・シュライヤーが起亜自動車のCDOに就任したのは2006年
2016年、フィンランド・ヘルシンキは都市として世界で初めてCDOを採用。話題になった初代CDOには、建築のバックグラウンドをもつAnne Stenrosが就任

デザインとは「未来を見通す仕事」

実のところ、デザインはどんな役割を担っているのだろうか。レポートでは、配車アプリ『Lyft』のリニューアルにおいてデザインが果たした役割が、次のように紹介されている。

Lyftの最新アプリのデザインは、単に「新しいタブ」を導入する以上に、会社そのものの新たな戦略を方向付けるものでした。それまでのアプリではクルマでの移動が強調されていましたが、ユーザーは複数の交通手段に関心をもっているという気づきから、路線バスやスクーター、レンタカーなどの新たな選択肢をアプリ上でクルマと同等の扱いで表示することにしました。このデザイン変更の過程で得られたユーザーおよびマーケットについてのインサイトは、Lyftが「乗り物の提供者」から「人が都市をマルチモーダルに移動するためのポータル」にシフトするという戦略を後押ししたのです。

Lyftのこの戦略転換に貢献したのは、もちろんデザイナーだけではない。ただ、同社のデザイン担当ヴァイスプレジデントが「デザインとビジネスが対立するのではなく、ともに何ができるかを考えている」と語っているのは示唆的だ。つまり、デザインにはデザインの果たす独自の役割があるということだ。

CDOとは「問いを投げかける人」

わたしたちが今回行ったアンケートで、日本で活躍するCDOならびにデザイン部門を率いるリーダーたちは、自らの役割を、次のように説明してくれた。

「コンテンツおよびプロダクトなどクリエイティブにまつわる体験設計の意思決定者」──鞍立寛子さん(LEAN BODY・CXO)
「ブランディング・デザイン・マーケティング・イノベーション領域の担当役員・執行責任者」──川嵜鋼平さん(LIFULL・CCO)
「デザイン組織(Division)のリーダー」──平野友規さん(Uzabase・CDO)

また、ベルトラでデザインリードを務めている鑓溝慎太郎さんは、より具体的な役割として、次の3点を挙げている。

・会社として社会に貢献するためのメッセージを社内外に発信し、ブランドを通貫させる。

・各サービスの関係性を明確に設計し、ユーザーにわかりやすい体験を届ける。

・社内にデザインの概念・考え方を浸透させ、装飾するため、仕上げるためのチームではなく、サービスの根元からビジネス設計に関わることができるチームを創る。

マッキンゼーのレポートは、デザイナーの能力として「顧客がユーザージャーニー全体で遭遇するペインポイントをめざとく見つける」スキルを取り上げている。

プロダクトのインターフェイスを設計するデザイナーは、そのプロダクトを使うユーザーにもっとも近しい存在。新しいコンセプトやプロトタイプに対するユーザーの反応をよく知り、さらに競合他社のサービスに対する反応に対する知見を豊富にもっているため、市場の変化を予測することに長けているとしている。

初期のスタートアップにおけるCDOの役割としては、NestoのCXO(Chief Experience Officer)である横山詩歩さんが自認する役割が一般的かもしれない。

(CXOの役割は)サービスを訪れる人の体験を考え、その質を向上させること。シード期のスタートアップということもあり、その時に事業として必要とされているものは、経営メンバー全員が役割を超えてその時自分たちがやれることはなんでもやるというスタンスです。

いずれにしても、CDO(ならびに、それに準じるポジションの人間)の役割は、デザイナーならではのユニークなインサイトを、組織の戦略的アプローチに統合することにある。企業が既存のサービスを改善し、あるいは新たなサービスを立ち上げ進化させるには、これまでのバイアスから解き放たれなければならない。そのために必要なデザイナーの意思を束ね、企業が自らに問いを投げかける存在としてCDOは存在するのだと、レポートには記されている。

権限ないところに成果はない

しかしながら、冒頭で述べた通り、このレポートは、米国におけるデザイン主導の企業の「残念な実態」を明かにしている。

・デザインを率いる者のうち、自社のCEOがその役割を十分に理解していると感じている人は半数にも満たない

・デザイン部門の責任者が何を担当しているか、自信をもって言えるCEOおよびその直属の部下は3分の1しかいない

・シニアデザイナーが戦略開発において重要な役割を果たしていると答えたCEOは、10人に1人しかいない

・デザインを率いる者のうち、自分は会社に潜在的な価値を最大限に提供できる立場にあると考えているのは6人中1人だけ

レポートは、その直接的な原因を詳細に伝えてはいないが、強いて挙げるなら、次のような一節が記されている。

彼らは、カスタマーエクスペリエンスを向上させるという漠然とした使命はもっているものの、社内の他のビジネスリーダーを説得するには、彼ら自身の説得力だけでは不十分です。

レポートがその紙幅の多くを「役割」と「権限」についての言及に割いていることから察するに、この2点にこそ「残念な実態」の原因と、改善のためのヒントがあるのだろう。役割については前述した通りだが、権限については次のような例が示されている。

優れた企業は、CDOに権限を与えています。(中略)LogitechのCDOアラステア・カーティスは、成功の大きな要因は独立した予算であると考えています。HPEでは、製品開発のさまざまな段階で、優れたデザイン原則が生かされていない場合、デザインリーダーに拒否権が与えられています。

CDOは適切に説明できているか

レポートでは、企業においてデザインが十分に機能するためには、CDOに権限が与えられていることが必要で、同時にそれを支持するCEOの存在も不可欠だとしている。だが一方で、そこには、CEOがデザインの役割を明言できなかったという現実もある。

そのミスマッチを解消するために、CDOには何ができるのか。レポートでは、実施すべきアクションとして次のような例が示されている。

・従業員に対して、実践例やデザインツールを広めること

・役員レベルでは、デザインの立場だけでなくユーザーの立場を代表して声を上げること

・デザイナーに対しては、優れたトレーニングを受け他部署の同僚と協力できる活発なコミュニティを構築すること

ユーザベースCDOの平野さんは、自ら率いるデザインチームの組織づくりについて、次のような役割を自身に課しているという。

・デザイン組織(採用や組織カルチャー)をつくること
採用が組織をつくるため、自分たちの組織が大切にしている価値観をワークショップで炙り出し、採用時における構造化面談とそこでの質問のトークスクリプトなどで構成します。また、月1回、価値観やバリューに対するふり返りや学びを共有しています。もちろん、コーチング型マネジメントによる1on1を実施します。毎週月曜日はメンバーとの1on1に終日を使い、視座合わせと自発性を高めます。

・デザイン組織のビジョンを描き、どこに向かうのか伝えること
デザイン組織が向かうべき姿を描きます。大きくはビジョンをつくり、常に来年どんな取り組みやどんな姿でありたいのかを想像し続けています。また、デザイナーを評価するためのコンピテンシーマップや評価制度などもつくります。私たちの組織では3カ月に1度、デザイナーの評価をします。そこで全員から「My DESIGN FORWARD」を発表してもらい、一人ひとりがビジョンに対してどれだけ前進したのかを確認します。

同様の「啓蒙」は、LEAN BODYでも実践されているようだ。

・立ち上げ段階から意思決定のポジションとしてボードメンバーとして参画すること。

・ビジネスとブランドの両立が、事業の成功および自分たちの目指したい方向性だとプロダクトの立ち上げ段階より定義したこと。→それを全社に伝えたこと。

・クリエイティブにまつわることは、すべて自身が目を通した上で世の中にだすと明確にしたこと。

CEOはデザインを「正しく」評価できているか

CEOのデザインに対する不理解を埋めるために、レポートではデザインをどう評価するかも紹介されている。

例えば、短期的な売上高の伸びといった伝統的な業績指標に加えて、顧客サービスや顧客満足度といった業績指標を追加するなどして、全員が一丸となって働くことができるような共通のインセンティブを見出すことも一つの方法です。

しかしながら、KPIなどの定量的な目標をデザインリーダーに設定している企業はわずか14%。あまりにも低い数字が、「約90%の企業がデザインの潜在能力を十分に発揮できていない」という調査結果につながっていると思わずにはいられない。

デザインを率いる者の存在の価値について、レポートが投げかける次のようなメッセージを最後に紹介して、本稿の締めとしたい。

チームのパフォーマンスを管理する指標は、デザインを画一的なものにするわけではありません。デザインを率いる者は、自分たちの役割を価値あるものにしている共感と直観とを失ってはいけません。ただし、実際のところ、デザインがその価値を提供するためには、定量的な尺度と定性的な尺度のバランスが最も重要です。ある医療機器メーカーのCEOはこう言っています。「もしデザイン責任者が、自社製品のデザインが競合他社よりも患者の生活を改善しているかどうかに関するデータをもっていないとすれば、そんな恥ずべきことはない」
ヒャッホー!!
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