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Portrait of CDO #1 後編:クリエイティブでなければ、価値ある経営判断なんてできっこない


株式会社LIFULL(以下LIFULL)は「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージとするソーシャルエンタープライズ企業。事業を通して社会課題解決をしていく会社であるが故に、「社会課題の発見と事業創出」をミッションの1つとするクリエイティブ戦略は経営の中でも特別重要な位置付けとされていました。この後半では、クリエイティブ戦略の中でクリエーターやデザイナーを実際どう育てていくのか。そして経営とクリエイティブはどう融合していくのか、LIFULL川嵜氏に聞いてみました。

川嵜 鋼平
執行役員CCO(Chief Creative Officer)/クリエイティブ本部長
2017年入社。執行役員CCOとして、ブランド戦略、ブランドデザイン、プロダクトデザイン、コミュニケーションデザイン、PR、研究開発、新規事業など、グループ全体のクリエイティブを統括。社会課題解決に取り組むあらゆる事業のクリエイティブ責任者として、グループ全体の経営をリードしている。またクリエイティブ組織の戦略策定・育成・採用など、組織づくりも担う。それ以前は、beacon communications k.k.、J. Walter Thompson Japanにて、Nike、Nestle、P&Gなどの企業のクリエイティブディレクションを数多く手がける。Cannes Lions金賞、Clio金賞、One Show金賞、Spikes Asiaグランプリ、Adfestグランプリ、文化庁メディア芸術祭優秀賞をはじめ、国内外の180以上のクリエイティブアワードを受賞。


LIFULL流、デザイナーの育て方

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神谷:
ずばり。デザイナーの育成ってどんなことをされてますか?
前回までのお話ですとデザイナーの役割期待って物凄く大きい気がするんですが。

川嵜:
僕の入社当時は、デザイナーって制作と呼ばれていたんです。なので、デザイナーは企画が決まってからサイトのUIデザインする、いわゆるエグゼキューターとして定義をされていました。そこからデザイナーの定義を広げて発想・表現・実行力を伴ったデザイナーにしていこうという方針を決めて、そこから育成プログラムというものを始めています。

まず、テクニカルスキルマップの策定から行いました。
これは、なにかというと「発想力」「表現力」「実行力」この3つの力を高めていきましょうという、LIFULLのデザイナーが身につけるべきスキルセットの指針ですね。

まず、発想力というのは、いわゆる事業戦略であったりブランド戦略・マーケティング戦略を理解して、ブランド、ビジュアルやサービスのコンセプト開発づくりから行う力になります。
そして、表現力というのが、UI/UXデザイン、グラフィックデザイン、更にフィルムのプランニングであったりプロモーションのアートディレクションであったりなど、表現に対して愛を注げる力。
最後の実行力というのは、QCDの部分ですね。結果につながっているかということも見ていますが、実際に事業成長に繋がっているか、社外のメディアから掲載依頼、取材獲得できるかなど。またデザインアワード・クリエイティブアワードを受賞することも、いわゆる実行力と捉えています。

神谷:
デザイナーの定義を広げていくために、まずはテクニカルスキルマップという基準を決めたんですね。それから育成に入った、と。

川嵜:
はい。育成で言うと本当にいろいろ行っているんですけれども、社内に「LIFULL Design School」という社内デザインスクールを開講しています。ここも発想力(=Think)の部分と表現力(=Make)の両方がしっかり学べるようにしようというもので、例えばUI/UX講座であればそれのUI/UXプランニングみたいなことをThink編で学び、実際にプロトタイピングしてみるというMake編があるというような形になっています。それを、UI/UX、グラフィック、フィルム、フォトディレクションなどのジャンルの他に、面白いところだとコピーライティングとかですかね。最近で言うと武蔵野美術大学の長谷川先生に来ていただいて、デザイン思考、サービスデザインのThink編・Make編を開講していました。
そういった業務内で学べないことは社内のデザインスクールでしっかりスキル習得してもらうということを行っています。


真に価値あるものを判断する、クリエイティブ経営

神谷:
LIFULLのデザイナーの今がわかってきたところで、質問をこれから先の未来にうつしたいと思います。
以前インタビューで「デザイナーがゆくゆくはアートディレクターに、ひいては経営者になる未来」という川嵜さんのご発言があったと思うのですが、なぜそう思ってらっしゃるのか教えていただけないでしょうか?

川嵜:
難しい問いだなあ(笑)

海外だとデザイナー出身の経営者ってすごく多いじゃないですか。
例えばAirbnbとかもそうですし。スタートアップだと特に経営層に必ずデザイナー出身者がいるという状態だと思います。

まずデザイナーがいることで何が違うのかという観点で言うと、いわゆるロジックで積み上げていくような事業づくりやプロダクト開発の目線というのはもちろんすごく重要だと思っていますが、最終的に人が判断する基準というのが、それら資本主義のけっこう外側にあると思っているんです。

例えば何か映像を見たときにぐっとくるのって、やっぱり言葉にできない感動なんですけど、ビジネスの視点だけだと、そういったものは作れないと思っています。
なのでいわゆる資本主義の外側にあるような美意識だったりとか言葉にできないような感動というものをクリエイティブは生み出せると思っているんですね。

本当の意味で一人ひとりの暮らしを作っていくためにはデザイナーが経営層にいて、そういった視点も持って経営している状態が望ましいと思っています。
そしてそういったデザイナーが経営者になる、そういったキャリアも今後は日本でもどんどんどんどん生まれてくるといいなあと思っています。

神谷:
目に見えない価値を作れるのがデザイナー、一方で経営者って価値を社会に提供すべきかを判断をしていく人間だと思うので、目に見えないものも価値を作れるデザイナーが合わせて判断もした方がいい、そんなお話なんでしょうか?

川嵜:
そうだと思いますね。

やっぱり目に見えない価値、定量的に推し測れない価値というものが、やはり世の中にはたくさんあると思うんですよね。それは企業活動でもそうですけれどもそれ以外も含めて。
なのでそういったことも含めて判断できる人材がやっぱり経営層には必要だと思います。

神谷:
入社された時が社名変更のタイミングで、ビジョンに向き合うところから入られてるじゃないですか。最終的に何を実現したいのかという「価値基準」を明確にしておかないと、目に見える見えない拘らず価値をジャッジすることはできない思ってるんですが、企業においてビジョン、パーパスみたいなものは、やはり重要なのでしょうか?

川嵜:
はい。すごく重要だと思っています。
弊社は経営理念の実現が最上位にあり、その下に先ほどのLIFULL VISION 2025という中期経営計画があります。その下に各事業、組織のビジョン、KGIやKPIがあります。LIFULLではビジョンツリーというものを社内で運用していて、本部や事業部、各グループなど、全ての部署にビジョンがありそのビジョン達成のためのKPIを持っているんです。

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※ブランドムービー「LIFULL VISION 2025」

神谷:
ビジョンツリー!

川嵜:
はい、うちはビジョンツリーというものを運用しているのですが、うちは本当に言葉選ばずに言うとかなりビジョンドリブンな会社なんです(笑)

神谷:
まず会社のビジョンがあって、部署ごとにもその部署の長がビジョンを考えてくっていうそんな感じなんですか。

川嵜:
長だけではなく、それこそ全メンバーでビジョン策定を行っています。

神谷:
そんなことされてるんですね。すごい、そうなんですね。それって見たりすることって可能なんですかビジョンツリーって。

川嵜:
それはダメですね。会社の戦略そのものだったりするので(笑)

神谷:
そ、そうですよね。。。そこってLIFULLの経営のど真ん中なんですかね、むしろPLなんかよりも?

川嵜:
両方ですね。論語と算盤という話をしていまして。ビジョンがあって、やっぱり足元の数字もしっかり伴っているというのが望ましいと思います。

神谷
デザイナー出身の経営者みたいな話にまたちょっと戻っちゃうんですけど、そこが増えることで、世の中ってどういうふうに変わっていくと思いますか。

川嵜:
そうですね。あらゆる人がもっと幸せになれると思っています。要は多様な人々の多様な価値観が認められる社会にできると思っています。

神谷:
なるほど、そうですよね。非常に共感します。その辺って入社される前からLIFULL内では言われていたことなんですか?

川嵜:
いや入社当時はそういった会話はなかったですね。
経営理念はあったんですけれども、実際に社会課題解決というワードや多様性を認めるということを具体的に言語化できておらず、そういったものは私が入社してから策定をして実際に戦略を組んで実行しました。

神谷:
「ソーシャルエンタープライズって最近になって言い始めました」みたいなお話もありましたが、2021年に社会課題解決を目的に据えられた、そのきっかけとなる出来事って何があったんですか?

川嵜:
やはり大きい理由としては、社名を「LIFULL」に変えたというところがまず1つ大きい要因かなと思います。あらゆるLIFEをFULLにということもすごい壮大なメッセージだと思うんですよね。どんな未来を実現していきたいかという会話をしていく中で、やはり事業を通して社会課題解決をする企業や組織に、徐々にブランド戦略にシフトしていったという感じですかね。


LIFULLのデザインが切り開く、10年後の未来

神谷:
社名を変えた時に、LIFULLが未来に対してどういうインパクトを持つのかってことを議論されてたと思うんですが、さらにここから10年後このLIFULL社がどうなっていたいのか、川嵜さんがどうなっていたいのかっていうところを、意思も含めてぜひお聞かせください。

川嵜:
はい。そうですね。10年、2031年ですよね。すごく難しい質問ですね。

神谷:
ですよね(笑)

川嵜:
まずLIFULLに関して言うと、やはり社会課題解決型企業であればLIFULLだっていう状態にしていきたいと思っています。より大きいソーシャルインパクト、社会課題を解決できる企業グループにしていきたいなって思っています、そして、クリエイティブという観点で言うと、先ほどお話ししたようなLIFULLが取り組む社会課題解決型のクリエイティブの定義やクリエイティブプロセス、人材育成が一般的になるといいなと感じています。

僕自身で言うとそうですね、10年後、50歳なんですけれども、人生100年だと思うので、引き続き社会課題を解決するようなもの作りに励んでいたいなあと思っていまして、LIFULLに入って4年経って、会社も組織もメンバーもすごく成長できたという手応えがあるので、やはり組織でしかアウトプットできないもの作りにこだわって、10年後も社会課題解決に取り組んでいたいなと思いますね。


*  *  *


インタビューを終えて。LIFULLの実践するクリエイティブ経営は、社名を変えたところから始まったと川嵜氏が語っていたのが印象的でした。
「あらゆるLIFEを、FULLに。」という壮大な願いが込められたLIFULLのその社名は、論語と算盤を地でいくような経営スタイルの組成に、大きな影響を与えたのだと言います。

LIFULL DESIGNのサイトには「LIFULLは世界一クリエイティブな企業を目指します」とあリます。人の生活に真に意味ある価値を作るためには、社会課題の発見から経営の意思決定まで企業全体でのクリエイティブな活動が必要となっていくのかもしれません。

LIFULLブランドとなって5年目。クリエイティブ経営の指針となるクリエイティブ戦略が川嵜氏により策定され、それを実践するための組織作りも育成含めて定着しはじめました。まさに「あらゆるLIFEを、FULLに。」していくための準備は整ったとも言えるのではないでしょうか。

「しなきゃ、なんてない」そんな多様な価値観が真に認められて世界に溢れ出す。そんなLIFULLが描く自由で賑やかな未来の世界は、想像するだけでちょっとワクワクしませんか?