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企業の新しい出口をデザインする

スタートアップの出口=EXITを巡る議論に、スタートアップエコノミーの耳目を集めている「ゼブラ」という新たな視点がもたらされようとしている。
「ゼブラ」は「ユニコーン」とは異なる概念としてアメリカで誕生し、スタートアップ企業へ上場やバイアウト以外のEXITのあり方を提案している。
「ゼブラ」が事業目的として据えるのは、社会課題の解決だ。一見NPOかとも思えるが、社会的な使命を全うするために、資本主義の枠組みの中で利益を生み出し持続可能な成長を追い求める点が大きく異る。

社会貢献と利益創出を両立させ、長い時間をかけて、着実に社会変化を生み出していく。「そんな事業運営ができたら」と望む経営者も多いだろうが、果たして「ゼブラ」は単なる理想を語った概念でしかないのだろうか。

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日本でゼブラの社会実装を目的に活動するZebras & Companyという会社がある。9月末には『石見銀山 群言堂』との協業を発表し、ゼブラの実現に向けて大きな一歩を踏み出したと聞いた。
今回は、Zebras & Company創業メンバーの1人、阿座上 陽平氏に話を伺った。果たして新しい企業の出口とは何なのか、これからの企業はどこに向かうべきなのか。

プロフィール:
阿座上 陽平
株式会社 Zebras & Company
共同創業者/共同代表取締役 
メディア会社や家具の商品開発会社を経てお菓子のスタートアップに従事。2018年に独立し、社会課題の解決と利益を出して健全な経営を行う企業のサポートを開始。2021年よりゼブラアンドカンパニーを立ち上げ投資・経営支援・ゼブラ的経営手法の啓蒙活動を行う。ファンや仲間を増やすことをベースにしたマーケティングやPR、クリエイティブディレクションを得意とする。

上場を目的としない企業成長の選択肢

ーまずは、Zebras & Companyの活動内容と、阿座上さんの担当領域を教えてください。

阿座上:
Zebras & Companyは、前身ともなるTokyo Zebras Unite(※1)で行ってきた「ムーブメント・コミュニティづくり」に加え、ゼブラの社会実装を本格化すべく経営⽀援事業と投資事業を展開しています。
経営支援において、僕が担当するのはマーケティング・ブランディング領域です。企業の提供価値を社会に伝え、事業成長が生み出す社会的インパクトと社会との関係性により良い相乗効果を生み出していくサポートをしています。
ただ、ゼブラ企業の実現には資本・経営・社会の一貫性が欠かせません。特に資本の部分では、投資をする側の「お金の意志」を理解できていないがために行き詰まってしまうスタートアップがよく見受けられます。
※1 2019年に田淵氏・陶山氏が立ち上げたZebras Uniteの東京チャプター

ー投資側の「お金の意志」とは何のことですか?

阿座上:
資金に込められた投資側の期待値のことです。
例えばVCの出資金には上場や何倍ものリターンという意志が、エンジェル投資家の出資には「社会的インパクトの創出」という意志が込められています。上場を目指すスタートアップであれば、同じ方向を目指しているVCからの出資は相性が良いと言えるでしょう。だけど、ゼブラのような時間をかけて社会課題の解決を目指す企業にとってはどうでしょうか。VCから出資を受けたばかりに望まない成長を強いられ、本来追求すべき使命を全うできなくなる可能性さえあります。
本来、資金調達とは企業の未来を左右しかねないほど重要な意志決定です。Zebras & Companyでは、投資家と起業家間の意志を合致させていくことを目的とした「Finance for Purpose」という事業も立ち上げています。

ー社会的インパクトの創出を目的とした出資は多いのでしょうか。

阿座上:
日本ではまだまだ少ないです。先行事例も少ないため、投資家にとっては様子見といったフェーズにあります。
ビジネスの成功確率が予測できない、という点ではスタートアップと同じですが、加えてゼブラは「経済的インパクトと社会的インパクトの両立」という難易度の高いチャレンジを実行していかなければなりません。そのためにも短期的成長を目指さないため、回収の設計が見えにくく、金銭的リターンが少なくなると予想されてしまうことが投資の増えない要因だろうと考えています。
私達が行うゼブラ型投資では、時間軸を切らずに株を持ち続け、配当という形で利益を受け取とっていく回収方法を構想しています。長期に渡り株を保有することで、VCの高値で株を売却してリターンを得ていくやり方と同程度の利益回収が見込めるという仮説がベースにあります。
日本では前例のない投資方法ではありますが、ゼブラへの投資が成り立つのだということを僕たちが実証していきたいですね。

ー例えば環境問題となると、成果を測れるのが100年後、ということもあるかと思います。 社会的インパクトはどのようにして評価するのでしょうか。

阿座上:
インパクト投資の課題の1つに、社会的インパクトを評価するための調査に莫大な時間を必要とすることが挙げられています。今後、テクノロジーの発展で状況は変わるかもしれませんが、現段階ではその都度、計測できるところで評価していくしかありません。
ただ、結果のみを成果と定めるのではなく、社会的インパクトを起こすためのプロセスを評価することはできると思います。社会変化の工程を描いたセオリーオブチェンジが鍵になってくるのではないでしょうか。

事業と社会を接続するセオリーオブチェンジ

ーセオリーオブチェンジ、初めて聞きました。

阿座上:
社会変化がどのような仮説で成り立つのかを可視化したものです。Zebras & CompanyのHPにも、セオリーオブチェンジが掲載されています。

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参考画像1:Zebras & Companyのセオリーオブチェンジ。事業内容がどのような社会変化に繋がり、相乗効果を起こすのかという仮設に加え、ビジョン達成に至るまでのプロセスを可視化している。

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参考画像2:阿座上さんが参画するプロジェクト「ユートピアアグリカルチャー」のセオリーオブチェンジ。酪農により排出される温室効果ガス問題の解決方法と、経済活動の循環を描いている。

阿座上:
ユニコーン企業が右肩上がりのリニアな成長を目指すのに対して、ゼブラ企業はステークホルダーや社会を好循環に巻き込みながら徐々に成長していきます。何が、どのような流れで循環していくのか。セオリーオブチェンジには、その構造の設計図が描かれています。

ー事業と社会との関係性が非常にわかりやすいですね。セオリーオブチェンジを描くには全体を見通す力が欠かせないと思いますが、阿座上さんは、その力をどのように養われてきたのでしょうか。

阿座上:
所属してきた場所で自然と身についたものですが、中でもBAKEでの経験は大きいと思ってます。最初は自由が丘の小さな洋菓子店だったのが、僕がいた約5年の間で全国にファンのいるスイーツメーカーへと成長しました。自分たちが仕掛けたアクションがどのような結果・変化をもたらしたのかを長期間にわたって見ることができたのは今に生きているような気がします。

社会へのインパクトを可視化するデザインの力


阿座上:
セオリーオブチェンジのような全体の流れを見て因果関係を把握するというのは、いわゆるテシスム思考のことだと思います。だけど、作ったセオリーオブチェンジを人に伝え、社会を変えていくにはそれだけじゃ足りない。いかに人をワクワクさせるか、関わりたいと思わせるのか、それはデザインの役割なんですよね。

ーZebras & Companyではどのようなことを意識されてデザインを活用されてきたのでしょうか。

阿座上:
ゼブラの啓蒙活動を行う中で、まずは「この会社なら大丈夫そう」と感じてもらうことを大切にしてきました。
というのも、僕らの支援対象である地方企業が資金的な相談をしたい時の悩みに「相談先がわからない」「行政や地域委員など大きな組織でもHPにクオリティーがなくて関わりにくい」といったことがあると思っていたんです。投資会社や政府機関は真面目なアプローチをすることが多いので、どこかお硬い印象を持たせてしまうんですよね。
僕たちが目指していたのは身近な存在としてのゼブラでした。親近感を感じてもらうためにも、HPを開いて目に入るファーストビューと一行のコピーだけで、感覚的に共感してもらえるかどうかを大切にしたブランディングやコミュニケーションを設計してきました。

ー実際に反響はありましたか?

阿座上:
そうですね。想定していた通り、地方企業や創業10年、20年が経過している企業からの反響が多かったです。
彼らはお客様やパートナーとの関係性を大事にしながらゆっくり成長していくことに意義を感じている。だけど、メディアが取り上げたり社会的に話題になるのは、同世代の起業家への何十億投資とか、上場みたいなことばかり。同じ場所を目指してもいいけれど違和感を感じている状態の時に、ゼブラと出会って「自分たちはこれだ」と思ってくれたのだと思います。

実証実験から、未来への循環を作る


ーZebras and Company自体の成功イメージを教えて下さい。

阿座上:
ゼブラ企業が一般化することです。VC投資のような派手さはないけれど、社会的に意味のある取り組みをしているのがゼブラ企業であると認識してもらう。そして、僕たちがリターンを証明して投資額を増やしていきたいです。デザイナーやエンジニア、行政などがゼブラ企業をバックアップするような体制も確立できるといいなと思います。
そのためにも、今持ってる仮説検証をやり切らなければなりません。成功事例を3年程でいくつか出していきたいです。

ーこれから出資していく企業の具体的なテーマとかは決めているんですか。

阿座上:
老舗企業、ジェンダーレンズ、リジェネレーティブ、エデュケーションという4つのカテゴリーを設けてます。この中のどれか、もしくは組み合わせた事業へ出資していく予定です。

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ーあまり聞き慣れないテーマですが、この4つを選定した理由はあるのでしょうか?

阿座上:
ゼブラ企業が取り扱う社会課題というのは、技術的には解決可能だけど、社会的には認知されていない複雑な問題であることが多いんです。SDGsに掲げられている世界的な問題ではない中でも、僕たちが重要だと思うカテゴリーを選びました。
最初は10個ほど候補がありましたが、最終的にメンバー3人、それぞれ1カテゴリーを選んだんです。僕たちのリソースは少ないですし、「これなら打ち込める」と思えるくらい課題感を強く持っているものじゃないと、長期に渡って支援を行う中でモチベーションを維持していけませんからね。
社会的な課題解決には時間がかかりますし、超えなければいけないハードルもたくさんあります。強い意志を持って社会課題に取り組む人たちがチャレンジできる環境を、Zebras and Companyが整えていけるといいですね。

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